
December 14, 2025
その着物は、
祖母が収容所へ向かうとき、
自分の婚礼着物と、夫の着物を、手荷物として持っていったもの
でした。
持っていけた荷物は、
自分で運べるだけの、ほんのわずかなもの。
その中に、
二人が結婚したときに身にまとった着物を選んだ理由は、
語られていません。
その事実を、
私は後になって知りました。
ある日、一人の女性から、一本のEメールが届きました。
「質問したいことがあるのですが、
お電話でお話しできるお時間はありますか。」
お話を伺うと、彼女は祖母が遺した、古い着物を一枚持っていると言いました。
その着物が、どんな着物なのかを知りたい。
それが、彼女の最初の相談でした。
数日後、彼女は私のスタジオを訪れました。
手にしていたのは、長い年月を経たとは思えないほど、丁寧に保管された一枚の着物でした。
広げてみて、私は息をのみました。
それは、婚礼着物でした。
一緒に収められていたのは、丸帯。
婚礼用の帯で、重さはおよそ4〜5キログラム。
今ではほとんど目にすることのない、格式の高いものでした。
彼女は、その着物を
「自分の結婚式で着たい」と言いました。
けれど、祖母はとても細身の女性だったようで、
その着物は、今の彼女の体型には身幅が少し足りませんでした。
特に、着物の内側に重ねて着る、赤い襟のついた襦袢は、
どうしてもサイズが小さく、
そのまま使うことができませんでした。
そこで、中に着るものだけは私のスタジオのものを使用し、
祖母の着物に合わせて、
襟の色や雰囲気をできる限り近づけました。
その上に、祖母が遺した婚礼着物を重ね、
補正と着付けで、なんとか袖を通せる形に仕上げました。
支度を終えたあと、
彼女は静かに着物に手を触れながら、言いました。
「おばあちゃんが、この着物を着ていたんですよね。」
その目には、涙が浮かんでいました。
まるで、布の向こう側に、
祖母のぬくもりを感じ取ろうとするかのように。
そして、同じケースの中には、
もう一着、着物が入っていました。
夫である祖父の着物です。
そばには、すっかり茶色に変色し、
固くなった足袋もありました。
着物の寸法から、祖父もまた、とても細い体格の男性だったことが分かりました。
二人の着物を私に見せながら、
彼女はずっと、言葉少なに、涙を流していました。
やがて、彼女はこう話してくれました。
これらの着物は、
祖母が収容所へ行くとき、
自分の婚礼着物と、夫の着物を、手荷物として持っていったもの
なのだと。
第二次世界大戦中、
日系人は突然、自宅を離れることを命じられ、
Japanese American incarceration camps
(一般には internment camps とも呼ばれています)
へ送られました。
持っていけた荷物は、
自分で運べるだけの、ほんのわずかなもの。
衣類や洗面用具、身の回りの品。
生活に必要なものですら、十分ではなかった時代です。
そんな中で、
その荷物の中に、婚礼着物と、夫の着物があった。
着物は、決して実用的な持ち物ではありません。
重く、かさばり、
日々の生活に直接役立つものでもない。
それでも、祖母はそれを選びました。
なぜだったのか。
その理由は、語られていません。
もしかしたら、
祖母は「過去」を持っていったのではなく、
「未来」を信じていたのかもしれません。
いつかまた、この着物に袖を通す日が来ることを。
それが自分でなくても、
自分の子どもや、孫の人生の節目であっても。
あるいは、
その着物しか、持っていけなかったのかもしれません。
そこには、
どうしても手放せなかった何かが、
あったのかもしれません。
その着物は、
何十年もの時を越えて、
孫の結婚式で、再び袖を通されました。
語られなかった理由は、
言葉として残ることはなかったけれど、
その日、確かに、そこにありました。
なぜ、その荷物の中に着物があったのか。
その答えは、今も分かりません。
けれど、
一枚の着物が命をつなぎ、
記憶を越えて、
次の世代へと手渡されたことだけは、確かです。
着物は、人生の節目に寄り添いながら、
世代を越えて受け継がれていくものだと、私は感じています。
結婚式もまた、
その想いがもっとも深く重なる時間。
この着物を広げたときの様子は、
短い動画にも残しています。
▶ YouTube Shortsで見る
▶【新しいショート】おばあちゃんの着物が、もう一度花嫁に。
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